不動産テックはもう古い

公開日2022/05/30
更新日2022/05/28


少し前のことになりますが、この道のプロフェッショナル養成を主要業務としている不動産流通推進センター主催の、かなり時代を先取りした講座を受けてみました。

題して「DXがもたらす新たな不動産ビジネスモデル」。
 
最重要経営課題として、業務のDX化に取り組んでいる会社の一員である以上、これは見逃すわけにはいきません。

コラムのプロフィールを見てくださった方からは“資格マニア”だと思われているかもしれませんが、宅地建物取引士の上位資格を持っていると、必然的に最先端の情報に触れるチャンスが多くなるのです。

 
不動産テック協会が一般社団法人として設立され、にぎにぎしくお披露目されたのは、今から3年半ほど前のことでした。

今のカオスマップを当時のものと見くらべてみると、プレイヤーは30%あまり増えているようで、今なお業界のDX化をけん引する存在であることに変わりはありません。

ところが、前述の講座では「不動産テックはもう古い」というのですから、びっくりしてしまいますよね。
 
しかし、古いのは今行っている手法のことではなく、“不動産テックという用語が古い”という意味。

不動産テックに代わり、プロパティとテクノロジーをかけ合わせた「Prop Tech (プロップテック)」という新しい呼称が、すでに世界標準の用語になっているとのことでした。
 
Prop Techは、ファイナンス×テクノロジーのFin Tech や、コンストラクション×テクノロジーのCon Tech といった隣接領域と連携することで、巨大なマーケットに発展する可能性を秘めており、不動産という狭い枠にとらわれないところを特徴としているようです。

前編後編あわせて130スライドにもおよぶ講座内容は、とてもご紹介しきれるものではありませんし、Prop Tech という用語の宣伝が本コラムの眼目なので、講座ネタはこのくらいにして、講座終了後に課されたレポートを、かみくだいた表現にしてお届けすることにしましょう。

レポートのための設問はふたつあり、最初の設問はほぼ一般論で回答できるので、みなさんもぜひ考えてみてください。

 

ひとつめの設問は、DX(Prop Tech)の普及は不動産業において顧客との関係性にどのような変化をもたらすと考えますか?というものでした。

消費者は能動的消費者と受動的消費者とに大別されますが、情報の非対称性が顕著な不動産業の消費者は、能動受動のいかんを問わず、営業パーソンのいわゆるニコポン式(にっこり笑ってポンと肩を叩く)の商談で意思決定を行うのが一般的でした。
 
しかしながら、Prop Tech の普及、深化によって、能動的消費者にかぎっていえば、Web探索を通じ、従来にくらべて膨大な情報に接することが可能となります。
その一方で、ニコポンが通用しなくなるであろう業者側としては、自社サービスの競合情報を膨大に把握していなければ、消費者との対等な商談のテーブルにつくことすらできなくなるでしょう。

人間関係を重視した営業スタイルが通用しなくなるだけではなく、業態によっては営業パーソンの存在そのものが不要となり、業者の人的資源は、コンテンツの充実やユーザビリティの向上などに振り向けられることになりそうです。

 

ふたつめの設問は、ご自身の業務において、顧客の利便性の観点からどのようなDX(Prop Tech)の仕組みの導入や改善点があると考えますか?また、その実現のための課題は何だと考えますか?でした。

私どもの会社では、投資用ワンルームマンションをお持ちのオーナー様に対して市中消化のお手伝いをすることが主業務になっていますので、Prop Tech のサービス分類では、個人を対象にした売るためのサービスであるiBuyerに相当するようです。
 
しかしながら、一般的なiBuyerは自社で物件を買い取る前提で事業構築をしているケースが多く、売主と買主との利益は相反するものである以上、オーナー様の利益を優先するために、売主側の仲介という業態を選択している私どものビジネスにテクノロジーを導入するのはそれほど簡単なことではありません。

仲介業で重視しなくてはならないのは、取引価格の客観的妥当性なので、客観的なスタンスで取引していることをアピールする必要があるためです。

HPで公開している、取引事例比較法にもとづく簡易査定システムは、査定というよりは相場確認ツールに近く、収益還元法にもとづく投資指標の算出シミュレーターは、私どもと接触したあとのユーザーへの利用推奨に留まっているため、市場における認知度は残念ながら高くありません。
 
とはいえ、シミュレートツールとしてはとてもよくできているので、つい先日解禁になった、不動産取引書面の電子化と、公開済みのシステムをうまく融合できれば、査定から取引完了までをオンラインで完結できるシステムを構築することは十分に可能だと思います。

市中消化を完了したオーナー様からいただくアンケートによれば、「最も苦心しているのは信頼かつ安心できる業者選びである」との結果が出ていますので、客観的スタンスのアピールという方向性は正しいはずですから、当面は、多面的な情報発信を通じて自社のブランディングを推進していき、環境が整ったあかつきには一気に広告予算を投入して認知度を高めるというのが最善の戦略になるでしょう。

 

提出したレポートには一応合格点をいただけたので、内容的に問題はないのでしょうが、今のところは隣接領域と連携するものではないため、「もう古い」とされている不動産テックの枠に留まっているのがちょっと残念なところですね。

しかし、新しもの好きの血が騒いでしかたないので、不動産テック?古い古い、これからはProp Tech じゃなきゃ、と、宣伝にこれ努めていこうと思います。

みなさんも一緒にProp Techを広めていきませんか。

このコラムを書いている人

中村 彰男

中村 彰男

1961年 東京生まれ 宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、ビル経営管理士(登録申請中) 宅建マイスター、管理業務主任者、2級ファイナンシャル・プランニング技能士 学習院大学経済学部卒業後、36年間一貫して不動産業に従事。 うち、ローンコンサルティングなど 業務畑経歴24年。自身も不動産投資にチャレンジし運用に失敗した経験を持つ。

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