リモートワークの普及拡大で郊外移住は加速するのか?
新型コロナ対策として導入されたリモートワークは、またたく間に普及していっただけでなく、サラリーマンの働き方を根本から変えていきそうだ、という説がメディアを賑わせて久しくなります。
たしかに、事務所にいるべき必然性の薄い業態であれば、ちゃんとビジネスさえ成立するなら、リモートワークで十分なのでしょう。
ただ、抱き合わせで語られることの多い、都心部から郊外への移住促進論については、もどかしさに似た違和感を覚えるので、この違和感の本質を少しばかり掘り下げてみたいと思います。
何よりまず、脱都会という発想は、歴史的にみて、明らかに時代に逆行しています。
もはや知る人も少なくなった高度経済成長時代に、副産物としてもたらされた環境汚染を嫌って、脱都会、脱サラリーマンを実現した人たちは、当時の価値観では勝ち組に分類されていました。
ところが、人口の減少と歩みを共にするインフラストラクチャーの後退によって、かつての勝ち組は続々と都心に回帰しているのです。
人口減少という止めようがない社会現象は、必然的に、社会資本や商業資本の集中をもたらすでしょう。
コンビニエンスストアがなければ夜も日も明けない現代人が、衰退していくべく宿命づけられている郊外に移住したとて、いずれ音を上げて舞い戻ってくるのがいいところなのではないでしょうか。
そういえば、かつての脱都会派の旗印のひとつは、自然回帰でした。
自然の中で人間らしく暮らすのがあるべき姿である、というもので、このお題目は、今回の郊外移住論でも、積極的な根拠としてしばしば取り上げられており、広い庭付き一戸建てを推奨する向きもあるようです。
しかしながら、この論者には、亜熱帯国である日本で広い庭を持つということが、どれだけ大変なことであるのかがまったく分かっていません。
春は降りしきる花びら、秋は絶え間なく舞い散る落ち葉の掃き掃除と廃棄、冬以外はひたすらはびこる雑草取り、害虫の駆除など、庭木が好きであればあるほど作業量は比例して増加します。
義母の趣味で丹精していた80坪の庭の手入れにほとほと嫌気がさし、家を建て替える際にすべて常緑樹に植え替えてしまったという主婦もいますし、庭の手入れから解放されたくて一戸建てを処分し、マンションに住み替えた高齢のお客様にもかなりお会いしました。
高温多雨な日本で庭を維持するというのは、ことほど左様に容易なことではありません。
これに限らず、近代日本の中流以上の居住思想は、どうやら使用人というものの存在を前提にしていたようなところがあって、使用人などという贅沢が許されなくなって以来、家の中で行なわれていたことが、どんどん外へ出ていく流れになっているのは事実であり、この外注、分業の流れからすれば、自然を楽しむとは、専門家が整備した自然らしきものを、都会から楽しみに出かけることを意味するはずなのです。
冒頭で述べた私の違和感の正体は、以上のとおり、2つの点で時代の大きな流れに反している、ということだったようですが、この問題についてはもう少し言いたいことがあるので、次回に譲らせてください。
このコラムを書いている人
中村 彰男
1961年 東京生まれ 学習院大学経済学部卒業後、37年間一貫して不動産業に従事。 うち、ローンコンサルティングなど業務畑経歴24年。 実家をアパートに改築し賃貸経営を行うかたわら、 自身も不動産投資にチャレンジした経験を持つ。 保有資格:宅地建物取引士/賃貸不動産経営管理士/ビル経営管理士/宅建マイスター/管理業務主任者/賃貸住宅メンテナンス主任者/2級ファイナンシャル・プランニング技能士/不動産コンサルティングマスター/土地活用プランナー
関連する記事