高齢者や老人の賃貸管理における認知症問題:家族信託という選択肢も

公開日2019/05/26
更新日2022/12/03

賃貸経営を始めた時は若く、気力もあったかもしれません。
 
しかし賃貸経営は先の長い経営。経営を行ううちに段々と年を重ね、ついには高齢者と呼ばれるようになります。
 
終活という言葉が流行っていますが、投資用不動産物件にも終活対策が必要です。
 
もしあなたが認知症になったり、痴呆になった時はどうすればいいでしょうか?
 
高齢ドライバーの引き起こす事故が社会問題になっていますが、あなたが事故を起こし逮捕された時・・経営はどうなるでしょう?
 
この問題は何も高齢者だけに限った話ではありません。
 
40代の働き盛りのオーナーも脳梗塞になり、判断能力に支障をきたすことだってあるのです。若年性認知症だって考えられます。
 
就活のためにマンションを手放すことを決意したから、関係ないと考えている方も危険です。
 
と言うのもマンションを売りに出し、数ヶ月のうちに買主が見つかったとしましょう。
 
契約を結び、引き渡しが1ヶ月後。その間に認知症にかかると、マンションの決済や引き渡しができなくなります。
 
また認知症にかかると売買契約以外にも、入居者との賃貸契約やリフォームの発注もできなくなります。
 
認知機能の衰えは誰しもがぶつかるかもしれない問題です。そのためこの問題について共に考えていきましょう。

認知症になる前、経営が難しくなる前にできることがある

高齢化や認知症などにより認知機能に問題を起こし、賃貸経営が立ち行かなく前に、今からできることが2つあります。
 
それが「委任状」を作成することと「家族信託」を行うことです。
 
ここでは家族信託についてより深くご紹介していきます。
 

家族信託

家族信託という言葉に聞き馴染みのない方も多いでしょう。
 
これまで認知症や相続の対策では主に成年後見制度が活用されてきました。
 
成年後見制度は認知症になった本人に変わり、後見人が財産を管理します。
 
家庭裁判所からの厳しい監督があるので、後見人に安心して頼むことができます。
 
しかし成年後見制度にも問題点があり、それは資産を売却することができないということです。
 
一方で家族信託では、資産の売却が可能になります。
 
信頼できる家族のいる方は、成年後見制度より家族信託の方が、より幅広い選択肢を選ぶことができるのです。
 
家族信託では家族が家庭裁判所の監督を受けることはありません。
 
そのため家族を信じることのできるオーナーに向いている方法です。
 
また家族信託では成年後見制度では不可能であった相続対策や事業承継対策についても策を講じることができます。
 
オーナー本人が認知症になっても、信託を受けた家族が独自の判断で資産を管理し、売却、移転することができます。
 
家族にとっては成年後見制度より裁量が効くので、メリットが多いですが、預けるオーナーからすると、自由に運用されてしまうのは不安だと思うかもしれません。
 
しかし家族信託で委託されても、受託者は自由自在に資産を売却したり、投資できるという訳でもありません。
 
信託する上で予め管理運用の方法や目的を定めておけば、受託者はそれに順じて資産を運用する義務を負います。
 
そのため契約内容で取り決めを行いさえすれば、家族が好き勝手することも防げるのです。
 
受託者は信託財産を、適正に管理する責任を負っており、自分の財産とは分けて管理しなくてはいけません。これを分別管理義務と言います。

家族信託のメリット・デメリットとは?

家族信託は一定のルールのもとに資産管理を行ってもらえる安心の制度ではありますが、メリットだけではなくデメリットもあります。
 

家族信託のメリット

財産の管理や処分が可能になる

家族信託の場合オーナーの認知機能に問題が起きても、受託者は財産の管理を行うことができます。
 
経営のために家賃の集金をしたり、リフォームをしたり、管理会社と委託契約を結ぶことができるのです。
 
また物件の処分を決めた際も、家族が受託者の名前を代わりに使って処分ができます。
 
よりフレキシブルな対応ができるので、家族の手間や負担が抑えられます。
 

倒産隔離機能がある

家族信託の大きなメリットである倒産隔離機能についてご紹介します。
 
もし受託者が破産してしまった場合、信託した財産と受託した財産は別物だと扱われるため、信託財産が差し押さえられることはありません。
 
そのため受託者が破産したとしても、自分の物件が差し押さえられてしまうことがないので安心です。
 
逆の場合も同様です。信託者が破産したとしても、受託者の財産が差し押さえられることがありません。
 
これを倒産隔離機能と言います。別々の所有だとみなされるので、共倒れすることがありません。
 

二次相続問題も柔軟に対応できる

二次相続とは相続した物件を更に相続することです。
 
よくあるのが奥さんに旦那さんが、物件の相続を委託することです。
 
しかしその奥さんも高齢になり、物件の管理ができなくなった場合、奥さんは子供に相続させることになります。これを二次相続と呼びます。
 
家族信託では、奥さんの認知機能が低下したら、次は息子にと次の受託者を指定することができます。
 
一方で遺言書では自分が死んだ時に相続する人を定めることができますが、二次相続者までは指定することができません。
 
また家族信託では、二次だけでなく三次、四次の指定もできます。
 
息子の次は孫と、あらかじめ指定できるのです。これを後継ぎ遺贈型の受益者連続型信託と言います。
 
まだ孫がいないという方もいるかもしれませんか、後継ぎ遺贈型の受益者連続型信託では生まれる前の孫を指定することさえ可能です。
 

家族信託のデメリット

受託信託にもデメリットがあります。どんなデメリットがあるのか見ていきましょう。
 

—相続財産の配分により家族間で揉めてしまう

配偶者や子供には法律上一定の割合の財産を相続できるという権利があります。
 
被相続人は生前に自分の財産を、どう処分しようと自由です。
 
しかし相続が発生した際に家族信託契約の内容が、他の相続人の遺産相続の権利分(遺留分)を侵害してしまう恐れがあります。
 
もし万一遺留分を侵害してしまうと、侵害された法定相続人から遺留分減殺請求をされる恐れがあり、家族間で揉めたり、法廷騒動にまで発展してしまいます。
 
家族信託を行う前には遺留分の配慮をしっかり行うことが大切です。
 
家族ともよく話し合い、未来に禍根を残すことがないようにしましょう。
 

家族信託は家族との信頼関係がないとできない

家族信託は家族を信じて託す契約です。逆に言えば家族を信頼できないと、託すことはできません。
 
しかし100%信用することがどうしてもできないという方もいるでしょう。
 
そんな方は信託監督人をつけるという方法をお勧めします。
 
信託監督人をつけると監督がつくので、家族が好き勝手行ってしまうことにブレーキをかけることができます。
 
受託者が好き勝手してしまうことは、受託者の暴走と呼ばれています。
 
信託監督人をつけることは、特に受託者が未成年であるケースで一般的です。
 

—信託契約の管理運用方法に拘束されてしまう

信託契約の管理運用方法に拘束されることはメリットでもあり、デメリットでもあります。
 
信託契約で運営の方法についてきちんと定めておけば、家族が勝手なことをすることがなく安心です。
 
しかし家族サイドからすると、時と場合により柔軟な対応ができなくなってしまうのです。
 
成年後見制度では家族の行なった契約を取り消すことも可能ですが、家族信託ではそれができません。
 
そのため家族信託を結ぶ際には、成年後見制度も利用することをお勧めします。
 

事例数、相談先共に少ない

日本での家族信託の歴史は浅く、事例も少ないです。
 
そのため家族信託について相談したいと考えても、相談先が少ないというデメリットがあります。
 
実は家族信託が広く利用されるようになったのは、2007年の信託方改正からです。
 
それまで家族信託を利用する人は殆どいませんでした。
 
歴史が浅いので事例も少なく、税務上、法律上の不明確点も多々あります。
 
まだ判例さえ出ていない案件もあり、例えば資産を2人兄弟のどちらかにだけ全て託すという信託契約を結んだ場合、もう一人が遺留分減殺請求をすると、家族信託契約を優先するのか、遺留分減殺請求を優先するのかという判断が保留になっているのです。
 
このように家族信託は事例が少なく、法制度も未発達という側面があります。
 
家族信託のデメリットは最初に対策を行なっておけば、防ぐことのできるものばかりです。
 
そのためデメリットよりもメリットの方が大きいと言えます。

1つでも当てはまったら、家族信託という選択肢を

家族信託を取るべきかどうか判断がつかないという方も多いかもしれません。
 
そんな方は下記の1つでも当てはまったら、家族信託という選択肢について考慮に入れるべきです。
 

信託できる資産がある

当たり前ですが信託できる資産がなければ、家族信託を取る必要はありません。
 
資産に関してはアパートなどの投資用不動産物件のみならず、自宅も同様です。
 

信頼して託すことができる人がいる

家族信託は家族への信頼が大前提です。そのため信頼できる家族がいないと、家族信託という選択肢を取ることは難しくなります。
 

信託の目的を持っている

なぜ信託するのかという目的を明確に持つことも大切です。
 

信託をする価値がある

信託を行うには各種士業の方に手伝ってもらう必要があるので、費用が発生します。その費用を支払っても信託する価値があるのかが大切です。
 

委託者・受託者の合意がある

委託したいと思っていても、受託者に断られてしまうと家族信託そのものが結べません。双方の同意が必要になります。

家族信託を利用する上でのワンポイント

家族信託をうまく利用するためのワンポイントをご紹介します。
 

—家族の納得を得る

家族信託では本人の希望通りに財産を管理する方法を予め決めておくことができます。
 
しかしその方法に家族が納得できるないのであれば、後々トラブルになってしまいます。
 
こうした方法でこの先物件を管理してほしいと、家族に説明し同意を得ることが大切です。
 

信託監督人をおく

家族信託を結ぶ際には弁護士や司法書士といった外部の専門家に、信託監督人になってもらうことをお勧めします。
 
外部の専門家をおくとチェック機能が働くので、正常に管理が実施されます。
 
家族だけの力に管理を任せると本当に管理がきちんとできているのか?と、不安に思うこともありますが、外部からのチェックが入っているとこうした不安を持つことがありません。
 
家族との関係も良好に保ち続けることができます。
 

信託期間は短く設定する

家族信託では二次相続以降の相続者も選ぶことができます。
 
しかしあまりに先々の相続者まで選んでしまうと、未来に支障をきたすことが大きいです。
 
例えば自然災害などがあり、物件を手放さなければ生活が厳しくなるという場合。
 
勝手に手放すことを禁じた家族信託が家族の足を引っ張ることになるのです。
 
そのため家族を信じ、未来のことには口を出さないことが鉄則です。
 
信託期間は短い期間で設定し、将来的に信託を終わらせましょう。

家族信託の利用が難しい方は委任状の利用を

委任状

委任状で自分の身に何かった際に、誰に管理を任せるのか決め委任契約を結ぶと、万が一の時も安心です。
 
日本賃貸住宅管理協会では、賃貸住宅所有者の認知症に備えた管理業務委任状の締結を管理会社に推進しています。
 
委任契約を結でおくと、家族間のトラブルを防ぐことにも繋がり、物件を管理する業者とも連絡がスムーズになります。
 
委任状は委任する人の判断能力に問題がないときに、効力を持つものです。
 
そのため認知症になる前に委任契約を交わす必要があります。
 
委任状では物件単位で委任するため、資産全ての委任ができません。
 
複数の物件を所有するオーナーは物件ごとに委任状を作成しましょう。
 
委任契約は自分自身の安心にも繋がるので、認知機能に問題が起こる前に契約を結びましょう。
 
家族信託を取ることが難しい方には、委任という選択もあります。
 
しかし本人の判断能力に問題がある場合、委任状での不動産売却はできません。
 
委任による代理人のできることには限りがあるので、家族信託という形を取ることができるのが本当は一番です。
 
今一度ご家族とよく話し合ってみてください。

このコラムを書いている人

マンション経営ラボ 編集者

マンション経営ラボ 編集者

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