昭和バブルと令和バブル

公開日2022/07/15
更新日2023/02/07

大量の100ドル札とアタッシュケース
かつてのバブル経済の崩壊から30年あまり経ちますから、現役の不動産プレイヤーで、バブルとその崩壊という激動の時代を身をもって味わった人はかなりな少数派になっていることでしょう。
 
肌感としては、2016年からの不動産マーケットは明らかにバブルの域に達しているように思われるのですが、大規模な金融緩和という共通項はあるものの、昭和バブルと令和バブルとでは、根本的な違いがいくつかあります。
 
まず、今のバブルでは、価格が高騰しているのが、ほぼ不動産に限られていることです。
 
かつてのバブルでは、実体のない高値を追いかけて止まるところを知らない上昇を続けた株と不動産を筆頭に、ゴルフの会員権、リゾート会員権、中古の外車、無名画家の絵画、高級ワインなど、すこしでも値上がりしそうなものはとりあえず買っとけ、という風潮が蔓延しており、借金してモノを買わないやつは馬鹿だと言われていたくらいでした。
 
ざっくり総括すると、キャピタルゲインの時代だったわけですね。
 
象徴的な思い出でいえば、まさに昭和が終わろうとするころ、1985年築のライオンズマンション西新宿第8という15㎡のマンションの一室が、1億円という今では考えられない値段で売りに出されたことがありました。
 
実際の成約価格は知るすべがないのですが、この一件を突如思い出したのは、ほど近いところに立地するライオンズマンション西新宿第6を最近当社が仲介し、バブル当時の抵当権額を見て肝をつぶしたからです。
 
1981年築17㎡の部屋と、東急田園都市線の宮崎台駅徒歩1分50㎡の部屋との2部屋に対して、設定されている抵当権額がいくらだったと思います?
 
まだ東京都庁は建設中だったし、都庁前駅も西新宿五丁目駅もない、新宿駅から徒歩16分、中野坂上駅から徒歩17分という不便なだけのワンルームに、共同担保とはいえ、今は三菱UFJニコスと名乗っている旧日本信販が設定した抵当権額は、なんと2億円ですよ、2億円。
 
こんなのは氷山の一角にすぎないわけですから、往時の狂乱ぶりが想像できるのではないでしょうか。
 
不動産の高騰ぶりが突出していたのはたしかですが、なんでそんな素性のしれない絵に100万も出すんだ?みたいな話はそこら中に転がっていたので、資産と名のつくものなら何でも値上がりしていた昭和バブルと比べると、今のバブルは令和不動産バブルと呼ぶのが正しいのかもしれません。
 
この令和不動産バブルは、かつてのバブルとは違って、キャピタルゲイン狙いのバブルではないという特徴もあります。
 
バブル崩壊後にアメリカからやってきて、価値の下落した不動産を買いあさっていったハゲ鷹ファンドから私たちが得た教訓は、不動産の担保価値は、そこから得ることができる利益をもとに算出されるべきであるという、収益還元法の大原則でした。
 
以来、不動産業界はこの大原則を忘れたことはないのでして、今のバブルの特徴は、千代田・中央・港・新宿・渋谷の都心5区に、文京・台東・豊島を加えた都心8区から外れたエリアが分不相応に、じわじわと値上がりしているところにあります。
 
日本経済新聞では臨都心と命名していましたが、板橋・中野・品川といった旧街道の宿場町や、本所深川地区と呼ばれた墨田・江東といった区の物件が、従来よりも高値で取引されるようになってきたのです。
 
価格の推移を注意深くみていると、最終的な買主の得る利益を年利回りの下限を3%に設定しているようで、価格が天井に近づくと、波状的に価格が上昇するエリアが広がっていくというのが、今のバブルの正体なので、収益還元法によるインカムゲイン重視の原則は、しっかりと根づいたかに見えます。
 
もうひとつ、昭和バブルと令和不動産バブルとの違いを指摘するなら、海外資本の存在があげられるでしょう。
 
金融の自由化はバブルの崩壊後のことですから、昭和バブルには外資はほぼ関与していません。
 
これまたアメリカに範を取った不動産の証券化が始まったのは今世紀に入ってからのことで、運用を終えた証券化ファンドの解体によって売りに出されるファンド組成物件は、外資からみればとても魅力的に映るようで、巨額の資金が流入しているのはご存知のとおりです。
 
幸いなことに、外資が狙うのは商業系の不動産に限定されていますから、私どもで取り扱う区分マンションに影響はないとはいえ、外資の動向は気になるところではあります。
 
以上、簡単にふたつのバブルの違いを検証してみましたが、バブルはいつか終わるものです。
 
以前から繰り返し述べているように、不動産価格の決定要因は、金融政策と人口動態の関数なのですから、荒れ気味の金融市場に対して日本銀行がどのように対処していくのか、多大の関心をもって見守っていく必要があるでしょう。

このコラムを書いている人

中村 彰男

中村 彰男

1961年 東京生まれ 学習院大学経済学部卒業後、37年間一貫して不動産業に従事。 うち、ローンコンサルティングなど業務畑経歴24年。 実家をアパートに改築し賃貸経営を行うかたわら、 自身も不動産投資にチャレンジした経験を持つ。 保有資格:宅地建物取引士/賃貸不動産経営管理士/ビル経営管理士/宅建マイスター/管理業務主任者/賃貸住宅メンテナンス主任者/2級ファイナンシャル・プランニング技能士/不動産コンサルティングマスター/土地活用プランナー

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