異次元金融緩和の終焉は近いか?
コロナシリーズ第1回の、昨年4月のコラムでは、不動産価格は、金融政策と人口動態の関数で決まる、と述べました。
日本では、2013年春に黒田東彦氏が日本銀行総裁に就任して以来、一貫してさまざまな形で金融緩和を推し進めており、行き場を失った資金が不動産市場に流れ込んだことにより、不動産相場を押し上げていることはみなさんご存知のとおりです。
この金融緩和の動きは、なにも日本に限った話ではなく、新型コロナによる景気の後退への対策として、ほとんどの先進国でも同様の状況にあり、不動産価格が高騰しているのもよく似ているのですが、今年に入ってから、明らかに潮目が変わってきたように思います。
既にカナダでは動きが
先進国で最初に動いたのはカナダでした。
4月の金融政策決定会合で、量的緩和策のひとつである国債の買い入れを、それまでの4分の3に引き下げることを決めたのです。
では、隣国カナダの動きを受け、アメリカがどう動いたかといえば、それから1週間後に行なわれた、アメリカの金融政策決定会合後のインタビューで、FRB(米連邦準備理事会)のパウエル議長は、債券購入の縮小についての質問に、まだその時ではない、と一蹴しました。
先々代のバーナンキ前議長が、似たような状況下で軽率な発言をしたために、世界中の金融市場が大混乱に陥った2013年の悪夢以来、FRBの議長には慎重な発言が求められているので、この時点では至極当たり前の対応だったのでしょう。
5月に入ると、今度はイギリスが、国債の買い入れを4分の3に引き下げますが、アメリカは沈黙を守ります。
ばかりか、5月中旬には、消費者物価指数の前年同月比の伸び率が、予想の3.6%を大きく上回る4.2%だったことが発表されたのを受け、FRBはインフレ懸念を打ち消すために緩和の継続を訴え、火消しに動きました。
いよいよアメリカも利上げへ
ところが、6月に入ると、金融政策決定会合を待たずして、新型コロナへの危機的対策として昨春購入に踏み切った社債の売却が、唐突に発表されます。
金融市場の不安解消の役割は終えた、とのコメントが付されていましたが、来たるべき債券購入圧縮が近いと感じた人は少なくなかったのではないでしょうか。
そして、17日の未明に行なわれた6月の金融政策決定会合で、ついにアメリカは、2年後の利上げと、購入資産圧縮についての議論を始めることを表明したのです。
これは、事実上の金融引き締め開始宣言と呼んでいいものです。
対応を迫られる側となる日本
日本においては、とてもではありませんが緩和打ち切りに動ける状況ではないとはいえ、いつまでも国際協調を無視できるものではありません。
アメリカが引き締めに動けば、ドルが買われ、ドル高円安に振れるのは当然ですが、極端なドル高が進めばアメリカの貿易赤字が増え、結果として政治的に是正を迫られるであろうことは、あのプラザ合意を思い出せば想像がつくことでしょう。
今回のFRBの発表は、近い将来における我が国の異次元金融緩和の幕引き、すなわち不動産価格の下落の序章になるような気がしてならないのです。
このコラムを書いている人
中村 彰男
1961年 東京生まれ 学習院大学経済学部卒業後、37年間一貫して不動産業に従事。 うち、ローンコンサルティングなど業務畑経歴24年。 実家をアパートに改築し賃貸経営を行うかたわら、 自身も不動産投資にチャレンジした経験を持つ。 保有資格:宅地建物取引士/賃貸不動産経営管理士/ビル経営管理士/宅建マイスター/管理業務主任者/賃貸住宅メンテナンス主任者/2級ファイナンシャル・プランニング技能士/不動産コンサルティングマスター/土地活用プランナー
関連する記事