米大統領選の日本株式市場・不動産市場への影響
【目次】
2024年11月5日に投開票が始まったアメリカ大統領選挙で勝利したのは、共和党の指名候補であるドナルド・トランプ氏でした。
アメリカ初の女性大統領を目指したカマラ・ハリス氏は、11月6日敗北宣言を行い、世紀の大接戦と言われた大統領選挙は、予想外に迅速な結果確定となりました。
世界経済の中心であるアメリカの大統領が誰になるかは、世界中に大きな影響を与え、日本もその例外ではありません。
多くの不動産投資家にとっては、トランプ大統領の就任が、不動産市場にどのような影響を与えるのか、気になることでしょう。
本記事では、米大統領選挙の日本株式や不動産市場への影響を考察し、今後の不動産投資家が取るべき対応について解説します。
アメリカ大統領選の結果
まずはアメリカ大統領選の結果と勝利したトランプ氏の掲げる政策について見てみましょう。
アメリカ大統領選、世紀の大接戦はトランプ氏が勝利
2024年11月5日にアメリカの大統領選挙の投開票が行われました。世紀の大接戦が報じられ、世界中が注目した選挙でしたが、結果はドナルド・トランプ氏が当選を確実にしています。
大統領選はアメリカの各州に割り当てられた選挙人の獲得数で当選が決定する仕組みです。トランプ氏は激戦州といわれた、ペンシルベニア、ジョージア、ノースカロライナを制して、接戦と言われた選挙戦で予想外の大勝を収めています。アメリカで退任後の大統領が返り咲くのは、132年ぶり2人目となります。
対立候補であったカマラ・ハリス氏は、現大統領ジョー・バイデン氏が2024年7月に異例の撤退表明をし、後任として8月に党の候補者指名を受けました。女性や若年層の支持を集め、勢いに乗る場面もありましたが、終盤に失速しました。アメリカ初の女性大統領を目指したハリス氏でしたが、11月6日に敗北宣言をしました。
トランプ氏の掲げる主な政策
トランプ氏の政策は一言で言えば「アメリカファースト」でしょう。アメリカを中心に考え、アメリカの利益を最優先するトランプ氏の考えは前政権時代にも体現しています。
ビジネスの世界に長く身を置いたトランプ氏は、特に経済成長に強くコミットしています。具体的には大規模な減税や規制緩和で経済成長を優先させる考えです。
前政権時に実施した個人所得税の減税「トランプ減税」を恒久化することや、法人税率を21%から15%に減税することを掲げています。
アメリカファーストの考えは、貿易に対する姿勢にも強く表われており、アメリカ国内の製造業を保護するため、広範囲にわたる関税の引き上げを主張しています。
日本も例外ではなく、自動車をはじめとする日本の輸出産業にも影響を及ぼす可能性があるでしょう。さらに、中国に対しては厳しい姿勢で臨んでおり、最恵国待遇を取り消し、関税率を60%超に引き上げることに言及しています。
さらにトランプ氏の政策で最も大きな特徴が移民政策です。移民に対して否定的な考えを持つトランプ氏ですが、大統領に就任したらメキシコとの国境を封鎖し、不法移民は強制送還させることを主張しています。
トランプ氏勝利に対する株式市場の反応
では、ここからはトランプ氏の大統領就任が株式市場にどのような影響を与えるのか、解説します。まずは、アメリカの株式市場がどのような反応をして、長期的にどうなると予想されるところからはじめて、その後日本の株式市場への影響を見てみましょう。
米国の株式市場は大幅な上昇
トランプ氏の大統領選勝利が確実になった2024年11月6日のアメリカ株式市場は、NYダウやS&P500、ナスダックなど主要な株価指数はすべて2%を超える大幅上昇で反応しました。
ビジネスマンとしての経験が長いトランプ氏は、経済成長路線を優先させるであろうことや株価を意識した政策運営をすると考えられていることを好感したものと考えられます。特に所得税減税の恒久化や法人税減税を主張しており、短期的にはアメリカ経済に良い影響を与えると考える投資家が多いようです。
また、事前の予想では接戦で当選者の確定が数日あるいは10日以上掛かることも予想されていました。特にトランプ氏が敗北した場合には、投票への不正を理由に敗北を認めないことが予想され、政治の混迷を招くリスクがありました。
しかし、結果としてトランプ氏が勝利し、ハリス氏は迅速に敗北宣言をしたことにより政治の混迷や空白が避けられました。株式市場がこの点を好感して上昇した部分もあると考えられます。
また、ハリス氏との接戦が報じられ、事前に予想が困難であったことも株価上昇につながっていると考えられます。ハリス氏が当選した場合、現大統領のバイデン氏の政策を引き継ぐことが想定されるため現状維持の印象が強く、株価の大幅な上昇は見込めませんでした
そのため、株価の上昇にポジションを傾けられず、中立の姿勢で待機していた投資家が、選挙の終了を機にロングポジションを再構築するために株式を買付したことも推測されます。
長期的にはインフレ懸念と不確実性
それでは、アメリカ株式市場は今後も継続的に上昇が見込めるのでしょうか。長期的に考えると株式市場の動向には注意が必要でしょう。トランプ氏の政策は、インフレと金利上昇を引き起こす懸念のある政策が多いからです。
アメリカファーストの具体策である輸入関税の引き上げは、アメリカ国内の物価上昇、つまりインフレにつながります。単純に輸入品が値上がりするからです。
また、移民に対する厳しい姿勢は安価な労働力を除外する圧力となり、企業における賃金コストの上昇を招き、インフレを引き起こす可能性があることを多くの専門家が指摘しています。
個人と法人に対する減税ですが、財源のない減税は財政を悪化させ金利の上昇を招きます。トランプ氏の政策は、やや人気取りに重点を置くあまり、財源や根拠には乏しい傾向があります。
金融政策においてトランプ氏は利上げに対して否定的な姿勢を取ることが予想されます。しかし、仮にインフレが発生しているにもかかわらず、FRBの利上げが遅れると、物価の上昇に歯止めがかからず、より深刻な事態を招く恐れもあります。
インフレが株式市場の成長を妨げることは、コロナ禍後の世界的な物価上昇で多くの投資家が経験しました。この経験をもつ投資家は、次にインフレが起きる予兆を見て取ると一斉に投げ売りを行う可能性があり、株式市場は大幅な調整を余儀なくされるでしょう。
日本の株式市場への影響
アメリカの予測に続いて、次は日本の株式市場を考えてみましょう。
日本の株式市場においても、トランプ氏の大統領戦勝利は、短期的には株価にプラスに働くでしょう。単純に、アメリカの株価が上昇することは、日本の株価について良いニュースであり、短期的には連れ高する可能性が高いからです。
ただし、日本の株式市場の方がアメリカと比較して厳しい状況にあります。国内の株式市場では、先の衆院選での与党の過半数割れにより政治が不安定となることが懸念されます。政治が不安定なことは、海外投資家が日本への投資を躊躇する大きな要因となるからです。
短期的に見てアメリカの株式市場が上昇するトランプラリーが一服すると国内の政治不安がクローズアップされて調整を余儀なくされる可能性があります。
長期的に見れば、アメリカのインフレ懸念と金利上昇は、日本のインフレ懸念と金利上昇につながり、株式市場にマイナスの影響を与える可能性が大きいです。
アメリカの金利が上昇すると、ドル高円安傾向に拍車が掛かります。円安は日本のインフレを助長する効果があるため、日銀は円安阻止そしてインフレ防止のため政策金利の引き上げを行う必要が出てくるからです。
トランプ氏勝利の不動産市場への影響
トランプ氏の勝利はアメリカ株式と日本株式に対して、短期的に上昇、長期的にインフレ懸念からの金利上昇を引き起こすリスクがあることを説明してきました。では株式市場や金利と不動産市場にどのような関係があるのか解説します。
株式市場と不動産市場の関係
株式市場と不動産市場は、一見すると別々の市場のように思えますが、実際には密接な関係があります。株式市場が好調な時は、不動産市場も活況となる傾向があります。これは、株式市場で利益を得た投資家が、不動産市場に資金を投じる可能性が高いためです。
株式市場が活況を呈すると、企業の業績も向上し、市場を通じて資金調達がしやすくなります。企業は調達した資金を設備投資や事業拡大に充当し、経済全体が活性化します。
経済の活性化は、雇用増加にもつながります。雇用が増加すると、人々の所得が増え、住宅購入や賃貸需要が高まります。また、企業のオフィス需要も増加し、オフィスビルや商業施設の建設も活発化します。
このように、株式市場の好調は、企業の業績向上、雇用増加、所得増加といった経路を通じて、不動産市場にプラスの影響を与えます。
さらに、株式市場と不動産市場は、投資家の心理面でもつながっています。株式市場が好調な時は、投資家のリスク許容度が高まり、不動産などのリスク資産への投資意欲も高まります。
逆に、株式市場が低迷すると、投資家はリスク回避的な姿勢を強め、不動産市場も冷え込む傾向があります。
金利の上昇に注意
株式市場と不動産市場の今後を考える上で、金利の動向は非常に重要な要素です。特に、金利の上昇は不動産市場に大きな影響を与える可能性があります。
金利が上昇すると、住宅ローンの借入コストが増加するため、住宅購入の需要が減退する可能性があります。住宅ローン金利が上がれば、毎月の返済額が増えるため、住宅購入をためらう人が増えるからです。
また、金利上昇は、不動産投資に大きな影響を与えます。不動産投資は、一般的にローンを利用して行われることが多いため、金利上昇は投資コストの増加に直結します。そのため、金利上昇局面では、不動産投資の収益性が悪化し、投資意欲が減退する可能性があります。
金利上昇が不動産市場に与える影響は、景気動向や政策金利の水準などによっても異なります。しかし、一般的に金利上昇は不動産市場にとって逆風となる可能性が高いと言えるでしょう。
トランプ氏勝利を受けた不動産投資家の対応は
トランプ氏の勝利を受けて、不動産投資家はどのような対応をとるとよいでしょうか。
短期的に見ると株式市場の好調が続くと想定されるため、不動産も保有していたほうがよいと思うかもしれません。しかし、その後に予想されるインフレと金利上昇を考えると、早めの売却も検討した方が良いでしょう。
なぜなら、前述の通り金利上昇局面では不動産価格が下落する可能性が高いためです。不動産市場の調整局面では、価格下落のリスクを回避するために、売り時を見極めることが重要です。今後の市場の動きに敏速に対応するために、まずはご自身の保有物件の現在の価値を把握することから始めてみましょう。
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まとめ
2024年11月5日に投開票が行われたアメリカ大統領選では、トランプ氏がハリス氏に勝利して当選を確実にしました。
トランプ氏の政策は、経済成長優先で短期的には株式市場も好感して上昇しています。しかし、トランプ氏の政策には、関税の引き上げや移民の強制送還など将来のインフレと金利上昇を招くリスクがあります。
日本の株式市場も短期的にはアメリカ株の上昇に追随する可能性が高いですが、アメリカでインフレ懸念が引き起こされれば、日本でも物価上昇と金利上昇が誘発される可能性が高いでしょう。
金利上昇が想定される場合には、保有する不動産を売却することも検討したほうが良いでしょう。ただし、不動産の売却には、査定から始まり3~6か月程度の時間が掛かるため、早めに動き出すことが重要です。今後の不動産投資の方針に迷った場合には、不動産の売却に詳しい専門家への相談をおすすめします。
このコラムを書いている人
マンション経営ラボ 編集者
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