【不動産投資 一棟編⑫】税引き後キャッシュフロー(ATCF:After Tax Cash Flow)について

公開日2021/10/11
更新日2024/01/11

2021.10.11
代表取締役会長 渡邊 勢月矢

TAX

前回は、「税引き前キャッシュフロー(BTCF:Before Tax Cash Flow)」についてお伝えしました。
 
前回のコラムはこちらになります。
 
今回は、様々な投資指標の8つ目として、「税引き後キャッシュフロー(ATCF:After Tax Cash Flow)」についてお話したいと思います。

 

・税引き後キャッシュフロー(ATCF:After Tax Cash Flow)とは?

 

キャッシュフロー(CF)には2つあります。
 
税引き前と税引き後ですね。前回、私は法人で購入しているため、税引き前のCFを重視しているとお伝えしました。
 
税引き前のキャッシュフローは属性に基づく融資条件によって変わりますが、税引き後のキャッシュフローは個人の所得税率または法人税率によって変わります。
 
税引き後キャッシュフローも属性によって変わるということが言えます。

 

物件購入するにあたり、法人化するメリットは様々ですが、税務申告コスト等のデメリットもありますので、まずは、個人で購入される方がほとんどだと思います。
 
個人のサラリーマンの方の場合、給与所得と不動産所得との合算で税率が変わってきますので注意が必要です。

 

✔以下の例題で税引き後キャッシュフローを計算してみましょう。
 
年収1000万円のサラリーマンの方が以下の一棟アパートの購入を検討しております。

 

<融資条件>自己資金10%、金利1.9%、期間30年

・価格:5800万円

・家賃:450万円/年

・運営費:90万円/年

・ローン返済金(元金):130.3万円/年

・ローン返済金(利息):98.0万円/年

・減価償却費:168万円/年

 

まず、税引き前キャッシュフローです。これは簡単に出せると思います。
 
税引き前キャッシュフロー

=[家賃]-[運営費+ローン返済金合計]

=[450万円]-[90万円+(130.3万円+98.0万円)]

=131.7万円

 

※運営費は、修繕費、管理料、固定資産税・都市計画税を指します。
家賃の20%を運営費として見込んでいます。

 

続いて、税引き後キャッシュフローを計算します。
 
税引き後キャッシュフローは税引き前キャッシュフローから「不動産所得に掛かる税金」を引いて出すことが出来ます。

 

  • 税引き後キャッシュフロー(ATCF)

=[税引き前キャッシュフロー]-[不動産所得に掛かる税金]

 

不動産所得に掛かる税金を計算するためには、不動産所得と税率を算出する必要があります。

 

  • 不動産所得

=[家賃]-[運営費+ローン返済金(利息)+減価償却費]

=[450万円]-[90万円+98万円+168万円]

=94万円

 

上記の94万円に、所得税と住民税の税率を掛けて税金を算出します。
 
国税庁の所得税の税率によると、年収1000万円につき課税される所得金額9,000,000~17,999,000円の税率33%のゾーンとなります。

 

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm

 

住民税は一律10%ですので、税率は43%となります。

 

  • 不動産所得に関わる税金

=[不動産所得]×[税率]

=94万円×43%

=40.4万円

 

  • 税引き後キャッシュフロー(ATCF)

=[税引き前キャッシュフロー]-[不動産所得に掛かる税金]

=[131.7万円]-[40.4万円]

=91.3万円

 

如何でしょうか。税引き後キャッシュフローは減価償却や税率によって大きく変わります。
 
所得税が900万円を超えてくると税率が一気に上がりますので、法人税の税率が概ね20%台であることを考慮すると、法人購入の方が税制面では優位性があります。
 
税率は高くても個人所得の節税をしたい、規模を拡大したい等、お客様によって目標は様々ですので、目的に合わせた選択が良いと思います。
 
今回は以上になります。
 
次回は、借入返済余裕率(DCR:Dept Coverage Ratio)についてお話ししようと思っています。

このコラムを書いている人

渡邊 勢月矢

渡邊 勢月矢

株式会社FGH代表取締役会長 CPM ® (米国不動産経営管理士)徳島県生まれ、広島県育ち。 大学卒業後、中小企業の営業支援を行う会社に就職。「個人投資家の目線に立った不動産売買仲介事業をしたい」との想いを抱き2007年2月、株式会社アーバンフォースを設立。その後、賃貸・売買部門を独立させ、株式会社FGHを設立・ホールディングス化。年間1000件以上の仲介案件を手掛け、通算8000件以上の適正な流動化を実現し、不動産所有者、購入希望者双方のニーズを満たすサービスを提供し続けている。 保有資格:宅地建物取引士/賃貸不動産経営管理士