賃貸管理経営において生活保護者は受け入れるべきなのか
【目次】
賃貸管理経営を行う中で、仲介会社から生活保護受給者の受け入れを打診されることもあるでしょう。
生活保護受給者というだけで嫌だと突っぱねてしまうオーナーもいますが、本当にその判断で良いのでしょうか?
生活保護受給者の受け入れについて、メリット、デメリット、リスクを含めて一緒に考えていきましょう。
そもそも生活保護受給者とは?
人は義務教育を終えた段階で働いて、生きていかなければいけません。
中学卒業後、高校、大学、大学院と進学していく人もいる一方で、中学を卒業した段階ですぐに働く人もいます。
何歳になった段階で働き始めるのかはそれぞれですが、誰しも働かなくては生きていけいないのです。
しかし事故や病気で働けなくなってしまう、家庭の事情で外に働けに出れない、ギャンブルで財産がなくなり生活ができない、母子家庭で生活が困窮している・・など様々な事情で、必要最低限の暮らしができなくなっている人もいます。
そこで誕生したのが、誰しもが必要最低限の生活を送れるように生活保護費を支給する生活保護制度です。
生活保護を自給することで暮らしを立て直し、貧困から脱出することができます。
現在日本で生活保護を受けている世帯の総数は1,636,902世帯あり、2,145,114人が生活保護を受けているのです。
もちろんこの制度を悪用し、働けるのに働けないふりをする人もいます。
また実は働いているのに、生活保護を受給している人もいるという負の一面もあります。
しかしここでは一部の悪いケースを考えるのではなく、純粋に働きたいのに働けない状態、生活の立て直しを図っている生活保護受給者という性善説にたって生活保護受給者について考察します。
生活保護受給者も住む場所が必要なため、あなたの所有する物件に住みたいという問い合わせがくることもあります。
生活保護受給者とはどのように付き合っていけば良いのか考えていきましょう。
生活保護受給者を受け入れるメリット・デメリット
生活保護受給者を受け入れるのには、メリットもありデメリットもあります。
そこでどのようなメリット・デメリットがあるのかご紹介します。
生活保護受給者を受け入れるメリット
ー入居率が上がり、空室経営から脱却できる
生活保護受給者を受け入れる最大のメリットは、空室が改善され入居率が上がることです。
生活保護受給者の数は前述した通り214万人を超えています。
大体名古屋市と同じ人口が生活保護受給者なのです。
かなりの数の人がおり、決して無視できないということがよく分かります。
そのため名古屋市と同じ人数を潜在的な入居者と見るのか、入居者として排除するのかは大きな問題です。
生活保護需給者も一般入居者と同じように受け入れると、空室が埋まり満室経営に繋がるというメリットがあります。
ー自治体から初期費用・賃料が支払われるので安心
生活保護受給者が部屋を借りる場合、受給者には支払い能力がないので、敷金・礼金などの初期費用は全て行政が支払うことになります。
また2年に1度の更新料も行政により支払われます。
通常の入居者であれば、初期費用や家賃が安くならないかといった交渉を持ちかけてきますが、行政の場合こうした費用交渉もありません。
つまり一般の入居者より生活保護受給者の方が安定した経営になります。
また生活保護受給者は、生活能力がないのですぐに引越しをしません。
引越し費用や新生活の費用はそう簡単に貯まるわけでないので、長期間の入居が期待できます。
—何かあった時にはすぐに担当のケースワーカーに相談できる
生活保護受給者には必ず担当のケースワーカーがついています。
福祉事務所には個人情報も保管されているので、もし入居している受給者と連絡が取れなくなってしまっても福祉事務所から連絡をとってもらうことができます。
相談にものってもらうことができるので、何かあった時にも安心です。
生活保護受給者を受け入れるデメリット
ー入居までの期間が長くなる
生活保護受給者が入居をするには、ケースワーカーと連絡を取り合い、初期費用の支払いについて見積もりや費用を確認し、その後費用の支給を受ける作業を行う必要があります。
そのため成約から入居に至るまでに期間がどうしても長くなります。
平均で内見から入居が実現するまで1カ月以上かかるようです。
お役所仕事ということもあり、スピード感はありません。
ただしホームレスの場合は一刻も早く入居ができるようにと急かされることもあるようです。
この場合ですと、入居期間が長くなるというデメリットはありません。
—家賃滞納リスクがある
生活保護受給者を受け入れる上で最も懸念されることが、家賃滞納です。
行政から支給されるので問題ないのでは?と考える方もいますが、決してそういうわけではありません。
大家に行政がそのまま入居費を支払う自治体もあれば、一度生活保護受給者に渡し、それから受給者が大家に支払うという自治体もあります。
生活保護受給者の生活保護費は、暮らす上で必要最低限の額のみです。
そのため住宅費にまで手を付け生活費に当てる人もいます。
こうしたケースが考えられるので、一般の入居者に比べると生活保護受給者は滞納リスクが高いと言えます。
—一般入居者から嫌煙される
生活保護受給者が隣に住むことを嫌う一般の入居者も多いです。
そのため生活保護受給者が隣の部屋に住んでいると知ると、退去したいと言い出すかもしれません。
また新しい入居者も隣が生活保護受給者だと入居を見送る可能性も高まります。
結果的に一般入居者が集まらなくなり、経営が生活保護者頼みと言う事態にもなりかねません。
ー生活保護受給者が引き起こすトラブル
生活保護受給者は一般の入居者と比べ、トラブルも引き起こしやすいです。
精神を病んでしまっている受給者は他の入居者に嫌がらせなどの迷惑行為をすることがあります。
また自殺率も一般の人より高いので、事故物件になってしまうこともあります。
70代以上の高齢生活保護受給者には孤独死のリスクもあります。
仕事もしていない世代なので、死後から発見までの時間も長くなり、部屋での腐敗が進んでしまうこともあります。
こうなってしまうと室内の原状回復費用は高額になります。
身寄りのない場合は、室内の残置物の処理費用も負担もかさみます。
孤独死の危険性がある場合は、オーナー自身で孤独死保険等の加入を行うことが必要です。
ー賃料の下落
生活保護受給者は住宅扶助費を自治体から支給され、その支給額の範囲内の住宅に住み家賃を支払います。
しかし生活保護の住宅扶助費不正支給が増えているという背景から、扶助費の減額や見直しを行う自治体も増えてきています。
そのため制度の改正により、賃料の減額を迫られることや問題のなかった生活保護受給者が退去してしまうということがあります。
また一部屋だと家賃を減額したということが知られると、他の部屋の入居者からも家賃交渉が入るかもしれません。その結果建物全体の賃料下落に繋がります。
生活保護受給者の家賃滞納を避けるためには?
生活保護受給者は家賃滞納をしやすいというデメリットがあります。
家賃の滞納が始まるとまずは督促、その後回収交渉、それでも難しい場合は裁判所への申し立てもできます。
しかしこうなる前にそのトラブルを未然に回避することもできます。
最初の対策としては、保証会社(家賃債務保証会社)に依頼することです。
生活保護受給者であっても、保証を受け付ける保証会社が増えており、保証会社に入っていれば家賃が滞納されても立て替えてもらうことができます。
また入居者への督促や家賃回収も全て保証会社が行います。
保証会社に入っておらず、連帯保証人がいない時も大丈夫です。
その場合は、自治体に訴えかけることができます。
自治体から住宅扶助費として、直接オーナー、管理会社に家賃が支払われます。
生活保護受給者を通さず、福祉事務所が直接家賃を渡す制度のことを、「住宅扶助の代理納付制度」と言います。
家賃を延滞なく支払ってもらえるので安心の制度です。
ただしこの手続きを行うには、生活保護受給者本人の同意が必要です。
悪徳な受給者は家賃を支払いたくない、その費用を自分で遊ぶお金に回したいという気持ちから同意しないことさえあるのです。
住宅扶助の代理納付制度が利用できればリスクは0ですが、この制度を導入していない自治体もあります。
まずは物件のある自治体が住宅扶助の代理納付制度を設けているのか調べてみるといいでしょう。
もし自治体が代理納付制度を設けていないのであれば、必ず保証会社に加入をさせてから入居を受け入れましょう。
迷惑な生活保護受給者は一般の入居者同様強制退去させることもできる
一般の入居者であっても生活保護受給者であっても、他の入居者に迷惑をかけるような行為があれば強制退去という手段に出ることもできます。
例えば酔っ払って暴れる、他の入居者のドアの前に居座る、他の入居者に金を無心するなど様々な迷惑行為があり、その度警察が呼ばれるということもあるでしょう。
ただしこうした事情だけですぐに強制退去まで持っていくことは難しいです。
まずは迷惑をかけないようにと働きかけること、担当のケースワーカーや福祉事務所に対応を相談することなど前段階としてやることがあります。
それにも関わらず、迷惑行為を繰り返し、その内容が社会生活上受忍すべき限度を超えている時、また他の入居者が退去してしまったなどの実害を被ってしまった場合には、契約解除を通告できます。
迷惑な入居者を放置してしまうと優良入居者の退去に繋がってしまうので、できるだけ早く対応を行うことが大切です。
話し合いにも応じてもらえないのであれば、内容証明郵便にて契約解除を通知し、期限が過ぎても退去しないときは少額訴訟になります。
そして判決が出ると、強制執行による退去になります。
強制退去には時間もお金もかかり、心労も大きいです。
しかし最悪の場合出て行ってもらうという選択肢があることも忘れてはいけません。
これは生活保護受給者に限らず、一般の入居者にも当てはまることです。
また契約の更新を拒否することも、実害を被っているなどのきちんとした理由があれば可能です。
生活保護受給者は受け入れるべきなのか?
生活保護受給者を受け入れるべきか本当に悩むことだと思います。
しかし生活保護受給者の数は決して無視できる数字ではありません。
入居率を高めるためにも、生活保護と聞いただけでダメだと判断するのではなく、事情を聞きどんな受給者なのか知ってみることから始めてみてもいいでしょう。
受け入れに不安を抱える方も多いですが、保証会社に入っていたり、行政のサポートがしっかりしていれば一般の入居者よりも逆に安心できると、積極的に受け入れを行なっているオーナーもいます。
生活保護者の賃料上限金額は東京23区で5万3,700円です。
ただし世帯数にもよって支給額は異なります。
住宅扶助額限度内の家賃で暮らしていかなければいけないので、転居する受給者も多いです。
転居前の家賃は扶助の対象にならず、自分で支払う必要があるので、早く入居したいと考えている生活保護受給者も多いです。
捉え方によっては有望市場とも言えるので、前向きに検討してみて下さい。
このコラムを書いている人
マンション経営ラボ 編集者
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