鎌倉殿の土地政策

公開日2022/02/20
更新日2023/02/07

本
今年のNHK大河ドラマでは、源頼朝が副主人公として登場しているそうですね。
 
私にはテレヴィジョンを視聴するという習慣がないので詳しい内容は知りませんが、個人的には偉大な政治家だったと信じているので、「奸智に長けた冷血漢」「女好きの恐妻家」といった一般的な頼朝像が、少しでも好意的なものに変わってくれたらいいな、と勝手に期待しています。
 
どのあたりが偉大だったのかといえば、崩壊寸前だった当時の土地制度を、とにもかくにも修正し、全国規模で定着させることに成功したからです。
 
わが国の土地制度は、地域ごとの特有な事情によって千変万化してきています。
 
大きく括ってしまうことに一抹の危うさをともなうことは百も承知ですが、細かいことを言い出せばキリがありませんので、構造的な変容に限定して概観してみたいと思います。
 

わが国の土地制度

今も昔も、土地政策は、徴税政策とは切っても切り離せない性質をもっています。
 
古くは仁徳天皇の御代、民のかまどから煙がのぼっていないのを憂いて、徴税を3年間にわたり停止したという故事が示すとおり、わが国にはかなり古くから税というものが存在していたようです。
 
しかし、体系だった税制として歴史に初めて登場するのは、大化の改新における租・庸・調制でしょう。
 
この改革については、公地公民や班田収授、口分田などの制度をメインに習うために、土地の制度変更であり、土地課税の話だと思い込みがちですが、税制自体は人頭課税を基本思想としていました。
 
しかし、当時の人口が多く見積もっても500万人、彼の国の1割ほどしかいなかったわが国で、これを強引に輸入したところでうまく機能するはずがありません。
 
早くも100年後には、生産性の向上のために土地の私有を黙認せざるをえなくなり、さらに150年ほど下った9世紀末には、人頭課税から土地課税へと、課税方針の大転換が行なわれることになります。
 

学問の神様 菅原道真

この大転換を主導したのが、学問の神様として知られる菅原道真だったという説があります。
 
課税方針の転換とともに、荘園という貴族の私有地を整理するための土地政策がこのとき初めて行なわれているので、彼の失脚は私有地からの収入という地下経済に依存していた貴族階級の総意の表われだったのかもしれませんね。
 
しかしそれでも、頼朝が政治の表舞台に立つまで300年あまり、度重なる貴族の私有地への取り締まりが繰り返されることになるのです。
 
それだけではありません。平安末期には、地頭と呼ばれることになる領主の在地代理人が徴税を任せられるようになり、苛烈な取り立てを行なったために、小作人と地頭との間で武力闘争が頻発するようになっていったのです。
 
これらを解決しようとした鎌倉幕府の政治の特徴とは、守護職の設置による全国的な警察権の掌握とともに、同じく全国的な地頭の任免権を得たところにあります。
 
なお、任免の判断は、のちに御成敗式目という成文法に結実することになる、公平な一定の尺度によってなされました。
 
年貢をねこばばして私腹を肥やせばクビが飛ぶ、といったたわいないものではありますが、裁決から情実を排除し、公平性をもたせようとする姿勢には好感が持てます。
 

朝廷と幕府という2つの権力

感心に堪えないのは、これらの統治にあたって、令制国の知行権や朝廷の位階をはじめとした律令制の基幹的な枠組みには一切手をつけていないところで、幕府の統治においては警察権と徴税権という行政上の実務に特化し、朝廷と幕府という2つの権力による重層的な統治方法を発明したことです。
 
この重層統治システムは、なんだかんだと形を変えながらも、原理的には明治維新までのおよそ600年にわたり機能したのですから、たいしたものだと思わずにはいられません。
 
さらに個人的な意見としては、鎌倉幕府の成立は階級闘争によって武家が公家から権力を奪取したというような分かりやすい話ではないと思っています。
 
目の前で展開されている土地政策上の混乱と騒乱を丸く収めようと、画期的な統治システムを編み出した天才的政治家がたまたま武門の棟梁であって、システムを維持するために武力を背景とすることが好都合だっただけ、というのが実相に近いのではないでしょうか。
 
政権獲得のために掲げられた貴種再興というよく知られたお題目は、分かりやすい目標をかかげて組織をまとめるための、今でいう企業ビジョンのようなものと言えるでしょう。その根っこにある目的、企業でいうところの創業理念に相当するものは、争いのない世の中を実現したいというただ一点だったのではないかと思うのです。
 
このような視点から、大河ドラマをご覧いただくのも一興と思いますので、有志の方はぜひお試しください。

このコラムを書いている人

中村 彰男

中村 彰男

1961年 東京生まれ 学習院大学経済学部卒業後、37年間一貫して不動産業に従事。 うち、ローンコンサルティングなど業務畑経歴24年。 実家をアパートに改築し賃貸経営を行うかたわら、 自身も不動産投資にチャレンジした経験を持つ。 保有資格:宅地建物取引士/賃貸不動産経営管理士/ビル経営管理士/宅建マイスター/管理業務主任者/賃貸住宅メンテナンス主任者/2級ファイナンシャル・プランニング技能士/不動産コンサルティングマスター/土地活用プランナー

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