新型コロナと不動産問題の記事がちっとも面白くない理由
なぜ郊外移住促進論は実態以上に浸透しているのか?
前回は、リモートワークの普及にともなう郊外移住促進論についての懐疑を述べさせてもらいましたが、これに限らず、新型コロナと不動産市況との関連性について語られるさまざまな記事については、依然として漠然たる違和感が拭えずにいます。
この違和感の原因をしつこく掘り下げてみたところ、どうやら、人間の生活というものを、単純な物理現象に還元した社会現象として取り扱ってしまっているからではないか、という仮説にたどり着きました。
生活を物的な現象として考えることは自由ですが、私たちの実生活は意思を持って営まれている以上、単なる物的現象などではありません。
日常語として定着しそうな「ソーシャル」の訳語として編み出された「社会」とは別に、「世間」とか、「浮世」とかの言葉がいまだに健在なのは、そのあたりの消息を物語るものでしょう。
そして、不動産というものは、社会よりは、世間や浮世とはるかに密接につながっている、ここから目を離してしまうと、本質が見えなくなるのです。
日本人は不安を感じやすい?
そんな浮世の代表的な光景に、酒場があります。
酒場の話題と言えば、他人の噂話が定番と決まっていますが、聞くともなしに聞いていると、アカの他人の噂話をしている人は稀で、おおかたは、その場にいない共通の知り合い(しかも職場の)について、熱心に語り合っているケースが多いようです。
オフタイムに仕事の話なんて真っ平ご免な人間からすれば、とうてい理解できない熱心さではありますが、あれはどうやら他人を語ることによって、みずからの立ち位置を確認しているらしいと思い至るに及んで納得しました。
酒盛り、という言葉が酒を貰うところからきているように、わが国にあっては伝統的に酒は独りで飲むものでなかったのであり、このような相対的な自己認識の伝統は、必然的に、群れの中の自身の立ち位置の確認を要求するはずだからです。
となれば、群れること自体が民族的な要求ではないかという見当はつくわけで、都会に人が集まるのは故なきことではないのです。
加えて、生物学的にも、日本人は群れたがる人種のようであるとする脳科学領域の研究発表もあります。
欧米人に比べて、不安を感じやすい遺伝子の型を持つ人が、とびぬけて多いんだそうです。
世界で最も自然災害リスクの高いとされるこの国土で、楽観的に暮らしていたら生き残ってはいけませんから、至極当たり前の結果なのでしょう。
心の底では常に警戒を怠らず、いざ災害に直面したら進んで助けあう、そのために隣近所とは常日頃から仲良くしておく、これが伝統的な日本の村落共同体の姿であり、さらにいえば、現代の企業の行動原理でもあります。
自分だけ助かればそれでいい、と言わんばかりに脱都会を図る行動は、この伝統的な行動原理とは真っ向から対立するものです。
まとめ
直近の報道によれば、東京都の人口は、4ヶ月連続して転出超過になったそうですが、おそらく一時的なものに留まるでしょう。
生まれ持った遺伝子には、誰も逆らえないからです。
転出者増加の背景には、少なからず、新型コロナによる失職も含まれているはずで、コロナ禍が終息すれば、またぞろ都会に人は集まってくるに決まっていますから、都心部における不動産投資は安泰である、と予想しておくことにします。
このコラムを書いている人
中村 彰男
1961年 東京生まれ 学習院大学経済学部卒業後、37年間一貫して不動産業に従事。 うち、ローンコンサルティングなど業務畑経歴24年。 実家をアパートに改築し賃貸経営を行うかたわら、 自身も不動産投資にチャレンジした経験を持つ。 保有資格:宅地建物取引士/賃貸不動産経営管理士/ビル経営管理士/宅建マイスター/管理業務主任者/賃貸住宅メンテナンス主任者/2級ファイナンシャル・プランニング技能士/不動産コンサルティングマスター/土地活用プランナー
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