【特集】アメリカ不動産投資、売却は気をつけろ!⑪
2020.6.1
代表取締役会長 渡邊 勢月矢
「米国源泉徴収制度」(FIRPTA)を知っていますか?
長らく不動産業界に関わり、収益専門の不動産会社を経営している私は、不動産のプロであると自負しています。
それこそ日本においては多くの売買を経験しています。
だからこそ、余計にアメリカ不動産投資と日本の不動産投資の差を感じており、これまでコラムに書いてきたように、売却時のH社の対応や手続きには戸惑いを覚えました。
これまでのことを列挙すれば、
・周辺治安悪化、生活保護の厳格化、ハリケーンの影響によって売却を決意
・1戸89,000ドルで購入した物件が、1戸80,000ドルに下落
・引き渡し間際まで空室への修繕を行う不可解な管理会社
・セラーファイナンス・バルーン返済による支払い
くわえて最後のダメ押しともいえるのが「米国源泉徴収制度」(FIRPTA)です。FIRPTAは、アメリカの連邦税で日本にはない税制度です。
日本では個人売却の不動産利益に対して、短期譲渡税や長期譲渡税というものはありますが、これはあくまで高く売った場合にかかる税金です。
しかし売却源泉税は高く売る・安く売ることに関係なく、売却金額の10~15%が源泉徴収される法律です。
とにかく外国人・外国法人がアメリカの不動産を売却したら支払わなくてはなりません。
これを知っている人はあまりいないでしょう。
ただし、「キャピタルロスであれば、免税手続きができる」とされています。
私の場合は240,000ドルの15%となり、36,000ドルです。
ここまでまとまった出費があるにも関わらず、購入時に説明がまったくありませんでした。
私はこの話を聞いてすぐH社のTさんにSNSで問合せをしました。すると、こんな返信が返ってきたのです。
【2018年7月24日に質問】
私:「物件売却の際にアメリカで源泉徴収 されるお話を聞きましたがいかがでしょうか?」
Tさん:「非居住者は原則的に源泉されますが、有無を言わさずというわけではなりません」
私:「有無を言わさずではないのですか?」
Tさん:「税務アドバイスは資格者の範囲になるので、一般論としては共有します。源泉徴収されても確定申告で還付されるものです」
私:「そういったことを事前に伝えてほしかったのです。なにしろ15%も源泉徴収されるのは大きいです」
その後、私はテキサスの管理会社の会計担当のMさんから「キャピタルロスの場合は免税手続きをすれば、源泉徴収されませんよ」と聞きました。
89,000ドルで買ったものが80,000万ドルになっているのだから、どう考えてもキャピタルロスです。
そこで、900ドルの報酬を支払って免税手続きをお願いしました。
これで、売却金額の15%を源泉徴収されずに済むと安堵したのですが、結果は否認でした。
どうやら、アメリカでの経済活動が短い場合は否認されるケースがあるそうです。
結局、36,000ドルを源泉徴収されることになってしまいました。
今年の7月に法人の決算があり9月に申告します。
それと合わせてアメリカでも確定申告すれば、源泉徴収された金額は年内に還付されるかもしれませんが、もしかすると来年になりかねないという状態です。
私の場合はキャッシュで買っているのでまだマシですが、これがローンを組んで買っていて残債が残っているケースなら悲惨です。
売却額が購入額より安くても一旦はFIRPTA で10~15%を支払わないといけない可能性もあり、そうなれば持ち出ししないと売れません。
このようなリスクがあることを、アメリカ不動産を販売する業者は説明しているのでしょうか。
●「米国源泉徴収制度」(FIRPTA)で36,000ドルの支払いが発生
【第1回】アメリカ不動産投資との出会い
【第2回】私が行ったSection 8(セクションエイト)とはどんな投資か?
【第3回】購入目的は4年間の減価償却
【第4回】運用実績(2016年~2018年)
【第5回】生活保護スキームの崩壊から売却を決意
【第6回】なぜ? 家賃滞納にテキサス州からの支払い停止
【第7回】アメリカ不動産では、仲介手数料は売主が全額払う
【第8回】不可解な精算書……売却直前で空室を修繕
【第9回】アメリカ不動産の売却は、基本的に売主に不利!?
【第10回】セラーファイナンスのリスク
【第11回】「米国源泉徴収制度」(FIRPTA)を知っていますか?
【第12回】令和2年度税制改正による海外不動産投資への影響と、私がアメリカ不動産投資で失敗して感じたこと
このコラムを書いている人
渡邊 勢月矢
株式会社FGH代表取締役会長 CPM ® (米国不動産経営管理士)徳島県生まれ、広島県育ち。 大学卒業後、中小企業の営業支援を行う会社に就職。「個人投資家の目線に立った不動産売買仲介事業をしたい」との想いを抱き2007年2月、株式会社アーバンフォースを設立。その後、賃貸・売買部門を独立させ、株式会社FGHを設立・ホールディングス化。年間1000件以上の仲介案件を手掛け、通算10000件以上の適正な流動化を実現し、不動産所有者、購入希望者双方のニーズを満たすサービスを提供し続けている。 保有資格:宅地建物取引士/賃貸不動産経営管理士
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