【特集】アメリカ不動産投資、売却は気をつけろ!⑫

公開日2020/06/12
更新日2024/01/11

 

2020.6.12
代表取締役会長 渡邊 勢月矢

不動産投資イメージ

令和2年度税制改正による海外不動産投資への影響と、私がアメリカ不動産投資で失敗して感じたこと

こうしていくつかの懸念や不満はあるものの、なんとかテキサス不動産を売却することができました。
 
前回、FIRPTAを最後のトラブルと書きましたが、じつはまだ解決すべき問題が残っています。
 
【未収金】2019年9月末時点での未回収滞納家賃は、実質2,178ドル 
【節税効果】節税合計額632万円
 
2019年9月末時点での未回収滞納家賃は、実質2,178ドルでした。これは今後の回収は見込めない状況です。
 
弁護士に回収を依頼すると着手金や時間チャージがかかり、回収額よりも弁護士費用の方が高くなる可能性が高いです。
 
またアメリカ人の生活保護者という明らかに資金力のない債務者に対して債権回収を引き受ける弁護士もいないでしょう。
 
これはもう泣き寝入りするしかありません。 
 
また、節税目的にはじめたアメリカ不動産投資ですが、結果的に節税合計額は632万円となりました。
 
これは減税ではなくて税の繰り延べです。
 
しかし、賃貸状況の悪化の為、売却せざるをえない状況になり、計画的な売却をすることができませんでした。
 
建物割合は80%でその償却もほとんど済んでおり、簿価は日本円でいうと約587万円になっています。
 
587万円を2640万円で売ったので、2640万-587万=2053万円が今期の固定資産税売却益で特別利益となります。
 
この売上をどのように圧縮するのかが今後の課題です。
 
結果的に見えてきたことは、やはり法人節税はアメリカの不動産投資ではなく、解約時期がある程度計画的に見込めるもの。
 
保険商品が良いと思いました。とはいえ、節税保険に対しても規制が強くなっていますので、どうすべきか試行錯誤している状況です。
 

今後の課題としては、前回のコラムで書いた源泉徴収された売却額の15%、36,000ドルの免除手続きが否認されています。
 
今年、確定申告したら還付されるので手続きを行わなくてはいけません。

 
あとはセラーファイナンスの2年間の支払いが計画通りにいくか。
 
金利の5%である750ドル/月(2019.8~2021.8)は、現在は入ってきていますが、今後も入ってきて、さらには2021年8月に元金と180,000ドル戻って来るのかが心配です。
 
もしも元金が払われなかったら裁判をおこすしかありませんが、当然ながら裁判費用がかかりますし手間もかかります。
 
このようなさまざまな問題をはらんだ物件(正確に言えば、問題がおこる可能性の高い物件)を、不動産販売会社は大勢の日本人に売りまくっているわけです。
 
かなりの手間暇と、場合によっては金銭的な負担がかかるとわかったうえで、覚悟して購入しているのであればまだしも、そのリスクをほとんど理解せずに購入してしまったのは大きな失敗です。

 
ただし、2019年度の税制改正大綱により、2020年4月からは買った時期に限らず減価償却ができなくなります。
 
以下、令和2年度税制改正大綱 p16 より抜粋します。

 
個人が、令和3年以降の各年において、国外中古建物から生ずる不動産所得を有する場合においてその年分の不動産所得の金額の計算上国外不動産所得の損失の金額があるときは、その国外不動産所得の損失の金額のうち国外中古建物の償却費に相当する部分の金額は、所得税に関する法令の規定の適用については、生じなかったものとみなす。
 

つまり、「2021年以降の確定申告では、海外の中古不動産で収支が赤字の場合、減価償却費を経費として計上できない」ということになり、これまでの節税メリットが得られなくなってしまいます。
 
こうなると、むしろアメリカ不動産を買いたい人ではなくて売りたい人が増えていくと思われます。

 
売却ニーズが急増するとなると、私が経験したような問題が、これからどんどん露呈していくのではないでしょうか。
 
私が経験したのはテキサス不動産投資だけなので、一括りにしては語弊があるかもしれませんが、テキサスの不動産は日本人が買うことによって相場を吊り上げたのだと考えます。
 

私は89,000ドルで買いましたが、売却時に80,000ドルに値下がりしました。
 
それが現地の相場なのです。業者は日本人向けの商品として仕入れたら、そこから2~3割の利益を乗せて販売するわけです。
 
すると日本人投資家が売却売する際には2~3割目減りします。1億円で買った物件なら7000~8000万円になります。
 
そう考えれば、私の物件の下落幅もそのようなものです。なにより今年は新型コロナウイルスの影響がありますから、今後はもっと値下がりする可能性があります。
 
むしろ下落幅が2~3割で済めば、御の字かもしれません。

 
また、額が大きければ先述したFIRPTA も15%かかります。
 
1億円の物件をキャッシュで買っていたとしたら、売るときは7,000~8,000万円に値下がりしたうえに、さらに15%分も納税しなければいけません。
 
今からそういうことが起きる可能性が高いです。

 
しかし、これが2018年に起こった新築シェアハウス「かぼちゃの馬車」事件のときのような大問題になるかといえば、そうはならないと思います。
 
なぜなら節税目的で買っている人たちは、節税を必要とするほど利益を得ているからです。
 
いわゆる高属性をターゲットにした投資手法ということで、損をしても声を上げないのでは……と思われます。

 
そもそも業者はそこに目をつけて、高属性をターゲットにしているのではないでしょうか。
 
「かぼちゃの馬車」が社会問題にまで発展したのは、年収1000万円以下のサラリーマンにフルローンで売っていたからです。
 
そうなると、危ないのは大手のO社が売っているようなローンを組んで物件購入する場合です。
 
値下がってしまえば、持ち出しなしでの売却が難しくなるかもしれません。

 
私自身は節税効果を得たわけですから、物件価格が下がったり、必要もない修繕コストがかかったりしましたが、今期に出た2000万円の利益を節税できる術があれば、結果はマイナスではありません。
 
それは法人の節税が目的だったからです。これがもし個人で行っていたら、売却益に対して短期譲渡税が40%近くかかるためで大損したでしょう。

 
ですから、海外不動産投資は純粋に利益を得るためでなく、なにかしらプラスアルファの目的がないと難しいように感じます。
 
私は節税目的でしたが、例えば、ハワイが好きで毎年通っているから、ハワイに不動産を購入するというのでもよいのではないでしょうか。
 
とにかく利益だけを目的として、なけなしのお金で行なうのはリスクが高いと感じました。
 
そうであれば日本の不動産のほうが安全です。

 
私は会社の内部留保を投資した形ですが、海外不動産投資は個人がローンまで組んでやるものではありません。
 
これはアメリカに限らずです。今、アメリカ不動産投資以外に、アジアの途上国への投資も流行っています。
 
とくにコロナ禍で先が見えないなかでの売却は相当に苦労するだろうと予測します。

 
知識不足ではじめた失敗だらけの私のアメリカ不動産投資体験でしたが、この情報が皆さまのお役に立てば幸いです。

●テキサス投資で得られた節税効果

 

【特集】アメリカ不動産投資、売却は気をつけろ!
【第1回】アメリカ不動産投資との出会い
【第2回】私が行ったSection 8(セクションエイト)とはどんな投資か?
【第3回】購入目的は4年間の減価償却
【第4回】運用実績(2016年~2018年)
【第5回】生活保護スキームの崩壊から売却を決意
【第6回】なぜ? 家賃滞納にテキサス州からの支払い停止
【第7回】アメリカ不動産では、仲介手数料は売主が全額払う
【第8回】不可解な精算書……売却直前で空室を修繕
【第9回】アメリカ不動産の売却は、基本的に売主に不利!?
【第10回】セラーファイナンスのリスク
【第11回】「米国源泉徴収制度」(FIRPTA)を知っていますか?
【第12回】令和2年度税制改正による海外不動産投資への影響と、私がアメリカ不動産投資で失敗して感じたこと

このコラムを書いている人

渡邊 勢月矢

渡邊 勢月矢

株式会社FGH代表取締役会長 CPM ® (米国不動産経営管理士)徳島県生まれ、広島県育ち。 大学卒業後、中小企業の営業支援を行う会社に就職。「個人投資家の目線に立った不動産売買仲介事業をしたい」との想いを抱き2007年2月、株式会社アーバンフォースを設立。その後、賃貸・売買部門を独立させ、株式会社FGHを設立・ホールディングス化。年間1000件以上の仲介案件を手掛け、通算8000件以上の適正な流動化を実現し、不動産所有者、購入希望者双方のニーズを満たすサービスを提供し続けている。 保有資格:宅地建物取引士/賃貸不動産経営管理士

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