【特集】アメリカ不動産投資、売却は気をつけろ!⑩
2020.5.21
代表取締役会長 渡邊 勢月矢
セラーファイナンスのリスク
前回のコラムで決済間際まで修繕が行われ、請求されたことをお伝えしました。
じつはそれはほんの序の口で、じつはもっと驚くべき話がありました。
わかりやすくするためにコラム7回目に記載した、売却までの流れを再掲します。
3月1日 T氏より「管理体制の変更について」メールがくる
①周辺治安悪化 ②生活保護の厳格化 ③2018年ハリケーン修繕悪化
上記理由により減価償却4年を待たずにバルク売却パッケージを提案される
3月26日 売却依頼 媒介契約 手数料6%→5.5%に減額してくれた
5月16日 3ユニット$240,000(@80,000)で売買契約
セラーファイナンス75%$180,000 2年 金利5%
8月1日 売却引渡し(決済)
ここで注目いただきたいのは、5月16日の売買契約です。
売却価格は3ユニットで240,000ドルですが、H社のエージェントSさんに「売却代金はどのように支払われるのですか?」と尋ねると「セラーファイナンスです」と答えました。
セラーファイナンスとは、売買代金の一部を売主が買主に対して融資を行うことで、海外不動産投資では珍しくないそうです。
私の物件でいうと、売主が売買代金の75%、240,000ドルの場合なら180,000万ドルを買主に貸すのです。
つまり、売却してもすぐに売却代金の全額は入ってきません。そのかわり金利5%はもらえます。
やりとりの履歴を見ると、管理担当は日本語を話せないため、会計担当のMさん(日本人)に伝えていますが、どうやらしっかり伝えていないようです。
日本人や日本語のわかるスタッフがいる会社で、こんなに意思疎通ができていないうえにずさんとは本当に驚きました。
なぜ、このような条件になってしまったのか。
結局のところ「セラーファイナンスでなければ売れない物件」ということです。
つまり需要がない物件です。きちんと需要があれば、そんなことをせず一括で現金で売ることができますから。
買うときは「めちゃくちゃいいですよ。キャピタルゲイン(売却益)にも期待できます!」と聞いていたのに、売るときは値下がりしたうえに「この物件は需要がないからセラーファイナンスをつけないと売れません」と言われたのですから、3年間で状況は変わるものです。
なお買主さんがどういう属性かというと、中国人女性でまとめて23ユニットも買っています。
すべて日本人から安く買っているそうです。すでに売却を決意した私も、その条件を飲んで、8月1日に引渡しすることになりました。
さて、その後、私はまた驚くことになります。
セラーファイナンスで売却することを承知しましたが、この融資が「バルーン返済」とは知らなかったからです。
毎月返済を行うのは通常のローンと同じですが、バルーン返済では最終回に残額を一括返済します。
最終回の返済額がバルーン(風船)のように大きくなることからバルーン返済と呼ばれており、一般的ではありませんが日本にもある返済方式です。
私としては、毎月の返済は元利均等や元金均等で、金利の5%と一緒に元金が毎月返済されるのかと思っていたので、2年間は金利だけの支払いで元金が一切返ってこないことに驚きました。
これは極めて高いリスクを負います。アメリカ不動産投資においては“よくある”ことかもしれませんが、私はその説明を決済時に聞いて心底驚きました。
去年の8月から750ドルが入っているのは確認していますが、これはあくまで利息払いなので、私の肩の荷が下りるのは2021年8月です。
つまり売却したといっても支払いは来年以降に保留されているのです。しかも、なんの保証もありません。
決済までトラブルが続き、どういう支払いなのかまで頭が回っていませんでした。
この時点では、エージェントのH社がきちんと説明をしてくれない会社であることはわかっていましたから、これはあきらかに私の確認不足です。
このような売主がリスクを負う形の返済方式になるとは想像もしていなかったとはいえ、これがアメリカ不動産投資の現実です。皆さんもセラーファイナンスには注意してください。
ちなみに、現状の新型コロナの影響を受けて、支払いが滞るのか・・・と肝を冷やしましたが、今のところ、毎月の利息750ドルを、遅滞なく支払って頂いています(^^)/
●セラーファイナンスの支払い明細
【第1回】アメリカ不動産投資との出会い
【第2回】私が行ったSection 8(セクションエイト)とはどんな投資か?
【第3回】購入目的は4年間の減価償却
【第4回】運用実績(2016年~2018年)
【第5回】生活保護スキームの崩壊から売却を決意
【第6回】なぜ? 家賃滞納にテキサス州からの支払い停止
【第7回】アメリカ不動産では、仲介手数料は売主が全額払う
【第8回】不可解な精算書……売却直前で空室を修繕
【第9回】アメリカ不動産の売却は、基本的に売主に不利!?
【第10回】セラーファイナンスのリスク
【第11回】「米国源泉徴収制度」(FIRPTA)を知っていますか?
【第12回】令和2年度税制改正による海外不動産投資への影響と、私がアメリカ不動産投資で失敗して感じたこと
このコラムを書いている人
渡邊 勢月矢
株式会社FGH代表取締役会長 CPM ® (米国不動産経営管理士)徳島県生まれ、広島県育ち。 大学卒業後、中小企業の営業支援を行う会社に就職。「個人投資家の目線に立った不動産売買仲介事業をしたい」との想いを抱き2007年2月、株式会社アーバンフォースを設立。その後、賃貸・売買部門を独立させ、株式会社FGHを設立・ホールディングス化。年間1000件以上の仲介案件を手掛け、通算10000件以上の適正な流動化を実現し、不動産所有者、購入希望者双方のニーズを満たすサービスを提供し続けている。 保有資格:宅地建物取引士/賃貸不動産経営管理士
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